COHERENT

COHERENTは、 43年前の予言の未決済分を2017年に果たした共同研究グループである。 コヒーレント弾性ニュートリノ原子核散乱を初めて検出した。 この論文は2017年9月15日にScience誌に発表され、 ニュートリノ物理学のよく引用される成果の一つに数えられている。
実験装置
検出はテネシー州オークリッジ国立研究所の核破砕中性子源で成功した。 そこではパルス化された陽子ビームが水銀標的に当たる。 中性子のほかにパイ中間子が生じ、 これがミューオンとニュートリノに崩壊する。 その結果は、 数十MeVの領域のニュートリノ源としてもっとも強度の高いものの一つである。 これはまさにコヒーレント散乱が起こるエネルギー領域である。
検出器は注目すべきほど小さかった。 ナトリウムを添加したヨウ化セシウムのシンチレーション結晶で、 重さは14.6 キログラムである。 比較のために言えば、 ほかのニュートリノ実験は数千トンを必要とする。 まさにそこがコヒーレント散乱の要点である。 その断面積がはるかに大きいため、 スイカほどの大きさの検出器で足りるのである。
パルス化されたビームが第二の工夫であった。 ニュートリノは鋭く定められた時間窓の中に到来するため、 正しいナノ秒にだけ目を向けることで信号をバックグラウンドから分離できた。
結果
15か月の測定時間ののち、 検出の有意性は6.7 σに達した。 素粒子物理学で発見の閾値とされる5 σを明らかに超えている。 観測された事象の数は標準模型の予言と一致した。
これによってこの過程の特徴的な兆候も確認された。 断面積は標的核の中性子数の二乗に比例して増える。 これは細部ではなく、 コヒーレンスの指紋である。 原子核は個々の核子の集まりとしてではなく、 全体として反応するのである。
2020年、 共同研究グループはアルゴンによる測定を加え、 この過程を第二の核物質で検出した。 2022年には、 統計を大幅に改善したヨウ化セシウムでの測定が続いた。
なぜこれほど長くかかったのか
ダニエル・Z・フリードマン(Daniel Z. Freedman)は1974年にこの過程を予言し、 そのときすでに、 その検出は難しいだろうと書いていた。 相互作用がまれだからではなく、 残すものがあまりに少ないからである。 弾かれた原子核はわずか数キロ電子ボルトしか動かず、 反跳は数ナノメートルの領域にとどまる。 そのような信号を測るには、 検出器技術、 冷却、 バックグラウンド抑制における40年の進歩が必要であった。
最後に決着をつけたのが14.6 キログラムの検出器であったことは、 この物語の美しい転回の一つである。
意義
基礎物理学にとってCOHERENTは新しい窓を開いた。 コヒーレント散乱は標準模型を超える物理に感度をもち、 いまでは弱い核電荷や新しい相互作用の可能性を測るための道具として用いられている。 またこれは暗黒物質を探索する検出器にとって避けられないバックグラウンドでもある。 いわゆるニュートリノ・フォグである。
ニュートリノボルタイクにとって、 COHERENTは三つの支点のうちの二つめである。 2015年のノーベル賞はニュートリノが質量を、 したがって運動量をもつことを示した。 COHERENTは2017年に、 この運動量が実際に原子核へ移ることを示した。 しかも低エネルギーで存在する最大の経路を通じてである。
関連項目
- コヒーレント弾性ニュートリノ原子核散乱 — 検出された過程
- 断面積 — なぜN²依存性が重要なのか
- 2015年のノーベル物理学賞 — 一つめの支点
- ニュートリノ振動 — その背後にある発見
- 基本方程式 — この断面積が入る場所
出典
- D. Akimov ほか(COHERENT共同研究グループ): Observation of coherent elastic neutrino-nucleus scattering. Science 357, 1123–1126 (2017).
- D. Akimov ほか: First measurement of coherent elastic neutrino-nucleus scattering on argon. Physical Review Letters 126, 012002 (2021).
- D. Akimov ほか: Measurement of the coherent elastic neutrino-nucleus scattering cross section on CsI. Physical Review Letters 129, 081801 (2022).
- D. Z. Freedman: Physical Review D 9, 1389 (1974).