宇宙線ミューオン
毎秒およそ100個のミューオンが、 地表の1平方メートルに当たっている。 それらは屋根も壁も人も、 誰にも気づかれずに通り抜ける。 ミューオンは宇宙線のうち最もよく測定できる部分であり、 基本方程式のなかで実効的な流束としてまとめられる四つの寄与の一つである。
どこから来るのか
宇宙から来る高エネルギーの陽子と原子核が、 高度およそ15 キロメートルで大気の窒素と酸素の原子核に当たる。 この衝突から新しい粒子の連なり、 すなわち空気シャワーが生じる。 その大部分はパイ中間子であり、 100万分の1秒に満たないうちにミューオンとニュートリノへ崩壊する。
これらのシャワーの荷電粒子のうち、 地面に届くのはほぼミューオンだけである。 残りはその前に吸収される。
本来なら届かないはずの粒子
ミューオンの平均寿命は 2.2 マイクロ秒である。 光速で進んだとしても、 ミューオンはこの時間におよそ660 メートルしか進めない。 大気はその20倍の厚さがある。 古典的な計算によれば、 事実上どれ一つとして地面に届かないはずである。
それでもミューオンは地面に届き、 しかも大量に届く。 理由は特殊相対性理論の時間の遅れである。 ミューオンから見れば距離が縮んでおり、 地面から見ればその内部の時計がゆっくり進む。 したがって海面高度でのミューオンの流束は、 アインシュタインの理論についての最も美しい日常の証拠の一つである。 毎秒、 どこでも、 何百万回もである。
どれだけの数があるのか
Particle Data Group は海面高度について、 1平方メートルあたり毎秒およそ 10² 個のミューオンを挙げている。 1平方センチメートルあたり毎分およそ1個である。 平均のエネルギーはおよそ 4 GeV である。
流束はどこでも同じではなく、 それは気持ちよく納得できる形でそうなっている。 高度が上がると流束は明らかに増える。 頭上にある大気が少なくなるからである。 また地磁気が入射してくる一次粒子を曲げるため、 流束は地理的な緯度にわずかに依存する。 この流束をもとに計算する者は、 それを場所に応じて設定することができ、 比較的簡単な検出器で自ら測り直すこともできる。
ニュートリノとの違い
ミューオンは電荷を帯びており、 電磁的に相互作用する。 それは進む道すがら物質を電離させることでエネルギーを渡す。 これは道のりあたりのエネルギー損失 dE/dx で記述される。 そのため1個のミューオンは、 断面積が多くの桁だけ小さいニュートリノよりも、 はっきりと大きな信号を残す。
その代わりニュートリノの流束は何倍も密であり、 時間的にまったく一様である。 一方ミューオンの流束は天候、 高度、 太陽活動によって揺れる。 つまり二つの寄与は互いを補い合う。 一方は強くて揺れ、 他方は弱くて頼りになるのである。
基礎研究の外での応用
ミューオンはとうに道具になっている。 ミューオグラフィはミューオンを使って、 X 線装置では捉えられない対象を透かして見る。 2017年にはある研究班がこの方法で、 クフ王のピラミッドのなかにそれまで知られていなかった空洞を発見した。 火山学者はこれを使って活火山の内部の密度分布を求めており、 日本ではこの方法が、 破損した福島の原子炉建屋の内部を覗くために用いられた。
90年ほど前にようやく発見された粒子が、 今日ピラミッドを透かして見ているということは、 この分野の速さについて多くを語っている。
関連する項目
- 基本方程式 — そこではミューオンの流束が四つの寄与の一つである
- 断面積 — ミューオンがニュートリノより強く相互作用する理由
- ニュートリノ振動 — ミューオンとニュートリノは空気シャワーのなかで一緒に生じる
- ニュートリノボルタイック — 二つの流れをともに利用しようとする構想
出典
- Particle Data Group: Review of Particle Physics — Cosmic Rays (2022).
- K. Morishima ほか: Discovery of a big void in Khufu's Pyramid by observation of cosmic-ray muons. Nature 552, 386–390 (2017).
- H. Tanaka ほか: 火山のミューオグラフィについての研究、Earth and Planetary Science Letters、2007年以降。