DONUT

2000年にタウニュートリノが初めて検出された、フェルミ研究所の DONUT 実験の検出器。
2000年にタウニュートリノが初めて検出された、フェルミ研究所の DONUT 実験の検出器。写真:Fermilab, Public domain, Wikimedia Commons

DONUT——Direct Observation of the Nu Tau——はフェルミ研究所で行われた実験であり、 2000年にタウニュートリノを検出した。 これは標準模型の12個の物質粒子のうち、 最後まで欠けていたものであった。

四半世紀の待機

マーティン・パール(Martin Perl)は1975年にタウ・レプトンを発見し、 それによってレプトンの第三の世代を開いた。 荷電レプトンにはそれぞれ固有のニュートリノが対応するため、 三つめが予期された。

疑いはほとんどなかった。 1989年、 CERNでのZボソンの崩壊幅の測定は、 軽いニュートリノの種類がちょうど三つであることを示した。 二つでも四つでもない。 しかし三つめが見られたことは一度もなかった。

その理由は検出そのものにある。 タウニュートリノは、 タウ・レプトンをつくることによってしか自らを明かさない。 このレプトンの寿命はおよそ0.3 兆分の1秒であり、 崩壊するまでにおよそ3分の1ミリメートルしか進まない。 したがって1 ミリメートルに満たない長さの飛跡を見なければならず、 しかもその中に折れ曲がりを見なければならない。

電子的な検出器ではこれを分解できない。 もっとも精細なワイヤーチェンバーでも数十分の1ミリメートルにとどまる。

ビームの製造

DONUTはまず自らタウニュートリノをつくらねばならなかった。 800 ギガ電子ボルトの陽子ビームがタングステンの塊に当たる。 その際にとりわけD_s中間子が生じる。 これはチャーム・クォークを含む重い粒子で、 そのごく一部がタウ・レプトンとタウニュートリノに崩壊する。

そのほかのものはすべて遠ざけられた。 タングステンの塊がハドロンを止め、 磁場が荷電粒子をそらし、 遮蔽体が残りを吸収した。 残ったのはニュートリノのビームであり、 その中には電子ニュートリノとミューニュートリノに加えて、 およそ5パーセントの割合でタウニュートリノが含まれていた。

写真乾板への回帰

検出のためにDONUTは、 素粒子物理学の初期に由来する技術に立ち返った。 写真乳剤である。

検出器は鋼と乳剤フィルムの層からなっていた。 鋼はそもそも相互作用が起こるための質量を与える。 乳剤は1 マイクロメートル未満の分解能で荷電粒子の飛跡を記録する。 これはどの電子的な検出器よりも千倍精細である。

その代償は手間である。 フィルムはそこを通り抜けたすべてを蓄積し、 チップのように読み出すことができない。 そのため電子的な検出器が何かがどこで起こったかを粗く示し、 該当する乳剤板がそののちに現像され、 自動的に顕微鏡で調べられた。

四つの事象

記録されたおよそ600万の相互作用のうち、 選別ののちにおよそ千個の候補が残った。 最終的に四つが紛れもない折れ曲がりをもっていた。

四つの事象を発見の根拠とすると聞くと心もとなく思える。 決定的なのは期待されるバックグラウンドとの比較であり、 それはおよそ0.3 事象であった。 そのような飛跡を偶然に四つ得る確率は、 きわめて小さい。

共同研究グループは2000年7月に発見を公表した。 のちに全データを精密に解析し直した結果、 その数は9事象に増えた。

それによって達成されたこと

DONUTによって標準模型の12個の物質粒子すべてが検出された。 六つのクォークと六つのレプトンであり、 後者には三つのニュートリノが含まれる。 2012年に続いたヒッグス粒子を別にすれば、 この建物は完成していた。

ニュートリノ物理学にとってこれは直接の帰結をもった。 ニュートリノ振動はまさにこの三つの種類のあいだの転移として記述され、 PMNS行列は3行3列をもつ。 三つめの種類が推論されていただけであったあいだは、 この証明の連鎖に一つの隙間が残っていた。

DONUTはそれを閉じた。 15年後、 OPERAは同じ乳剤技術によって、 ミューニュートリノが途中で実際にタウニュートリノへ変化することを示した。 これによって円環が閉じられた。

関連項目

出典

  • DONUT共同研究グループ(K. Kodama ほか): Observation of tau neutrino interactions, Physics Letters B 504, 218 (2001).
  • DONUT共同研究グループ: Final tau-neutrino results from the DONuT experiment, Physical Review D 78, 052002 (2008).